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雄蜂の子の生産方法及び蜂巣箱

書誌

特許番号 特許第3845656号(P3845656)
発明の名称 雄蜂の子の生産方法及び蜂巣箱
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
登録日 平成18年8月25日(2006.8.25)
発行日 平成18年11月15日(2006.11.15)
出願番号 特願2006-52769(P2006-52769)
出願日 平成18年2月28日(2006.2.28)

特許権者

識別番号 399080490
氏名又は名称 株式会社シンギー

発明者

氏名 李 宝珠

弁理士

氏名又は名称 松井 茂
監査官 吉田 佳代子

参考文献

特開昭61-108317(JP,A)

詳細な説明

【技術分野】
【0001】
本発明は、健康食品、医薬品等の原料として利用できる雄蜂の子の生産方法及びそのための蜂巣箱に関する。
【背景技術】
【0002】
蜜蜂には、働き蜂と、女王蜂と、雄蜂とがあり、働き蜂と女王蜂は、有性卵から孵化する雌蜂であるが、働き蜂となるべき雌の幼虫は、花粉と蜂蜜を与えられて成虫になるのに対して、女王蜂となるべき雌の幼虫はローヤルゼリーを与えられて女王蜂の成虫になる。
【0003】
そこで、女王蜂用の小部屋(王台)を有する巣板を作り、その王台に雌の幼虫を入れておくと、働き蜂がローヤルゼリーを運んでくるため、そのような蜂の性質を利用して、栄養的価値の高いローヤルゼリーを効率よく採取することが行われている。
【0004】
また、蜂の幼虫(蜂の子)自体も栄養価が高いことが知られ、従来、揚げてそのまま食べたり、乾燥・粉砕して得た粉末を原料とする健康食品としたりすることが行われてきた。そして、この健康食品は、蜂の子の有する蛋白質、アミノ酸、ビタミン、ミネラルを豊富に含有し、自律神経失調症、更年期障害などに対する改善作用が認められている。
【0005】
一方、無性卵から生まれる雄蜂は、女王蜂との生殖のためだけに生まれてくる蜂であり、その数はとても少なく、女王蜂と交尾した後は死んでしまう蜂である。この雄蜂は、雄蜂用の巣房に産卵された無性卵が孵化して、働き蜂によって哺育されて育つので、雄蜂用の巣房を有する人工の巣板を作って設置しておくことにより、人為的に雄の幼虫、すなわち、雄蜂の子を生産することができる。
【0006】
この雄蜂の子は、ローヤルゼリーと比較してもアミノ酸等の含有量が高く、また、雌蜂である働き蜂や女王蜂にはない雄蜂特有のホルモン等を含有し、栄養的価値が高いことが知られている。そして、産卵後20~23日、特に産卵後21日の雄蜂の子は、羽化直前のさなぎの状態であり、アミノ酸等の栄養源の含量がもっとも高く、羽化ホルモン等も最も多く生産されているため、より優れた生理活性が期待できる。
【0007】
この雄蜂の子を健康食品素材等として利用するためには、自然の状態では蜂群に対して少数しか産卵されない無性卵から孵化する雄蜂の子を大量に生産する技術が必要とされていた。
【0008】
上記のような問題に関連して、下記特許文献1には、養蜂に関する技術の一つとして、巣房の形状を工夫して女王蜂の産卵を促し、働き蜂の行動に影響を与えるフェロモンの分泌を旺盛にして、働き蜂の巣別れムードを抑制して、一群の蜂群をコントロールする方法が開示されている。
【特許文献1】 特開昭61-108317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、女王蜂の無性卵の産卵を促進して、無性卵から孵化する雄蜂の子を効率的に生産するための技術ではなかった。
【0010】
そして、従来の養蜂技術による雄蜂の子の生産方法では、蜜蜂自身の生理習性によるところが大きく、上述のとおり、自然の状態では蜂群に対して少数しか存在しない雄蜂の子を、大量に生産することは困難であった。また、一定の産卵量を確保しつつ産卵後の日齢をそろえて、羽化直前の栄養的価値の高い品質のものを安定的に大量生産することもできなかった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、女王蜂による無性卵の産卵を制御して、栄養価が高い羽化直前の雄蜂の子を大量に安定的に生産するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明の雄蜂の子の生産方法は、働き蜂が出入りできて女王蜂は出入りできない隔王板で仕切られた産卵制御領域内に女王蜂を入れる女王蜂移入工程と、前記産卵制御領域内に雄蜂巣板を挿入する雄蜂巣板挿入工程と、該挿入された雄蜂巣板を、前記女王蜂移入工程が完了し且つ前記雄蜂巣板挿入工程が完了したときから所定期間後に前記産卵制御領域内から取り出す雄蜂巣板取り出し工程と、該取り出された雄蜂巣板を、前記産卵制御領域の領域外に設けられた女王蜂のいない無王区に配置して所定の日齢に達するまで働き蜂に哺育させる無王区哺育工程とを含み、前記女王蜂移入工程が完了し且つ前記雄蜂巣板挿入工程が完了したときから前記雄蜂巣板取り出し工程までの所定期間内に、前記女王蜂の無性卵を前記雄蜂巣板に産卵させることを特徴とする。
【0013】
本発明の雄蜂の子の生産方法によれば、女王蜂と、女王蜂の無性卵が産み付けられる雄蜂巣板との接触期間を一定期間に限るので、日齢のそろった雄蜂の子を生産することができる。
【0014】
上記の発明においては、前記所定期間を48時間以内とすることが好ましい。これによれば、得られる雄蜂の子の日齢の差の最大幅を48時間以内とすることができる。
【0015】
また、前記無王領域内哺育工程において、前記女王蜂移入工程が完了し且つ前記雄蜂巣板挿入工程が完了したときから21日まで哺育させて、日齢が19~21に揃えられた雄蜂の子を生産することが好ましい。これによれば、得られる雄蜂の子は、羽化直前の蛹の状態であり、アミノ酸等の栄養源の含量がもっとも高く、羽化ホルモン等も最も多く生産されているため、より優れた生理活性が期待できる。
【0016】
更にまた、前記産卵制御領域内に挿入された雄蜂巣板が、前記産卵制御領域の領域外に配された新蛹蜂の巣板及び蜜粉の巣板に両側面から近接して挟まれるように配され、働き蜂が、該雄蜂巣板、該新蛹蜂の巣板及び該蜜粉の巣板を自由に行き来できるようにすることが好ましい。これによれば、日齢の若い働き蜂が、女王蜂の世話をしたり、花粉や蜂蜜を運搬するために常に活動的に前記巣板を行き来するので、女王蜂の産卵意欲を促進することができる。
【0017】
本発明の雄蜂の子の生産方法においては、複数の雄蜂巣板を用いて前記雄蜂巣板挿入工程及び前記雄蜂巣板取り出し工程とを繰り返し、無性卵の産み付けられた1の雄蜂巣板を前記産卵制御領域内から取り出し、無性卵の産み付けられていない他の1の雄蜂巣板を前記産卵制御領域内に挿入することが好ましい。これによれば、前記産卵制御領域内に移入された女王蜂の産卵意欲が旺盛な期間に、繰り返し効率よく無性卵を産卵させることができる。
【0018】
本発明の雄蜂の子の生産方法においては、前記無王区には前記産卵制御領域内で日齢が7日ずつずれるように無性卵の産み付けられた雄蜂巣板が常に3枚配置され、前記無王区哺育工程を経て日齢が21日に達した雄蜂巣板を前記無王区から1枚取り出すときに、前記雄蜂巣板取り出し工程を経た新しい雄蜂巣板を前記無王区に1枚挿入することが好ましい。
【0019】
これによれば、7日ごとに働き蜂の哺育群の中に無性卵の産み付けられた1枚の雄蜂巣板を配置するので、前記無王区に配置された3枚の雄蜂巣板につき、餌やり等の哺育負担は常にその1枚分についての哺育負担で足り、同時に3枚分の餌を調達する等の必要がない。したがって、働き蜂の哺育群の哺育負担を軽減することができ、哺育に対する意欲減退傾向を引き起こすことなく熱心さを維持させたまま哺育させることができる。
【0020】
本発明の雄蜂の子の生産方法においては、前記女王蜂として、交尾経験のない処女女王蜂を用いることが好ましい。これによれば、交尾経験のある女王蜂に比べて、生産性よく無性卵を産卵させることができる。
【0021】
上記の発明においては、羽化後の女王蜂の大翼を切除し、働き蜂が出入りできて女王蜂は出入りできない隔王柵を巣門に取り付けて働き蜂の出入りができ女王蜂が外に出るのを防ぐように構成された蜂巣箱で飼育して得られた処女女王蜂を用いることが好ましい。これによれば、羽化後の女王蜂が蜂巣の外に飛び出して、雄蜂と交尾するのを防ぐことができる。なお、蜂の生理習性によれば、女王蜂は蜂巣の外の空中で交尾する。
【0022】
また、女王蜂の出房1~7日後に密閉容器内に放し、エーテル又は二酸化炭素による麻酔処理を施された処女女王蜂を用いることが好ましい。これによれば、前記の麻酔処理を施すことにより、擬似的に女王蜂の生理状態を交尾後の状態にする、すなわち、女王蜂に交尾をしたと思い込ませることができ、交尾後2、3日後に産卵を始めるという習性を利用して、スムーズな無性卵の産卵の開始を促すことができる。
【0023】
本発明の雄蜂の子の生産方法においては、前記無王区哺育工程を経た雄蜂巣板を無菌室に運び、前記無王区哺育工程において形成された巣房の蓋を無菌室でカットして、巣房から雄蜂の子を取り出し、集められた雄蜂の子を急速凍結して保存することが好ましい。これによれば、雄蜂の子が汚染されることがなく、その状態で急速凍結して保存するので、保存中に腐敗等が進行することがなく、原料の長期の保管が可能となる。
【0024】
一方、本発明のもう1つである蜂巣箱は、働き蜂が出入りできて女王蜂は出入りできないようにするための隔王手段を有し、前記隔王手段で仕切られた産卵制御領域内には、雄蜂の卵の産卵に適した巣礎を基礎として形成された雄蜂の巣房のみを有する雄蜂巣板が配され、前記産卵制御領域の領域外である無王区には他の巣板が配されていることを特徴とする。
【0025】
本発明の蜂巣箱によれば、前記産卵制御領域内で女王蜂に無性卵を産卵させ、その産卵後の無性卵を前記無王区で孵化させその幼虫を哺育することができるので、上記の本発明の雄蜂の子の生産方法に好適に用いることができる。
【0026】
本発明の蜂巣箱においては、前記隔王手段が、隔王板であることが好ましい。これによれば、従来型の蜂巣箱に前記隔王板を挿入することで、簡単に前記産卵制御領域を形成させることができる。
【0027】
本発明の蜂巣箱においては、前記隔王手段が、底板と、左右一対の側板と、前後面を形成する隔王柵と、上下に開閉可能に取り付けられた蓋板とを有する箱体から成り、該箱体内に巣板を装着できるように構成した女王蜂産卵制御器であり、前記女王蜂産卵制御器には女王蜂の無性卵の産卵のための雄蜂巣板が装着されていることが好ましい。これによれば、女王蜂が、前記産卵制御領域内に保持され雄蜂巣板が装着されている状態のまま、雄蜂巣板が装着された前記女王蜂産卵制御器を蜂巣箱から取り出したり挿入したりすることができるので、特に、上記の本発明の雄蜂の子の生産方法の実施をする際の操作性に優れている。
【発明の効果】
【0028】
本発明の雄蜂の子の生産方法によれば、女王蜂と、女王蜂の無性卵が産み付けられる雄蜂巣板との接触期間を一定期間に限るので、日齢のそろった雄蜂の子を大量生産することができる。
【0029】
また、上記の発明において、女王蜂の無性卵が産み付けられる雄蜂巣板が、産卵制御領域の領域外に配された新蛹蜂の巣板及び蜜粉の巣板に両側面から近接して挟まれるように配されるようにすれば、日齢の若い働き蜂が、女王蜂の世話をしたり、花粉や蜂蜜を運搬するために常に活動的に前記巣板を行き来するので、女王蜂の産卵意欲を促進して、日齢のそろった雄蜂の子を効率的に大量生産することができる。
【0030】
また、上記の発明において、産卵制御領域内で日齢が7日ずつずれるように無性卵の産み付けられた雄蜂巣板を無王区に常に3枚配置し、無王区哺育工程を経て日齢が21日に達した雄蜂巣板を無王区から1枚取り出すときに、無性卵の産み付けられた新たな雄蜂巣板を無王区に1枚挿入するようにすれば、働き蜂の餌やり等の哺育負担が軽減されるので、日齢のそろった雄蜂の子を効率的に大量生産することができる。
【0031】
更にまた、上記の発明において、生まれてきた女王蜂をエーテル又は二酸化炭素による麻酔処理を施せば、擬似的に女王蜂の生理状態を交尾後の状態にするので、スムーズな無性卵の産卵の開始を促し、日齢のそろった雄蜂の子を効率的に大量生産することができる。
【0032】
一方、本発明の蜂巣箱によれば、その蜂巣箱内に設けられた産卵制御領域内で女王蜂に無性卵を産卵させ、その産卵後の無性卵を、その蜂巣箱内の産卵制御領域の領域外に設けられた無王区で孵化させその幼虫を哺育することができるので、上記の本発明の雄蜂の子の生産方法に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明において、基本的な蜂の飼育は、従来の養蜂技術によって行うことができる。すなわち、常法に従って、人工の巣板を配置した蜂巣箱を用いて女王蜂を中心とする蜜蜂の蜂群を飼育し管理する。そして、働き蜂には、女王蜂の世話、巣の手入れ、巣房の形成、哺育等をさせる。以下、本発明の技術的特徴を、図を用いて具体的に説明する。
【0034】
まず、本発明の蜂巣箱について説明する。
【0035】
本発明の蜂巣箱は、本発明の雄蜂の子の生産方法に用いるために工夫された蜂巣箱である。図1には、本発明の蜂巣箱の一例を示す。
【0036】
この蜂巣箱10は、雄蜂巣板30、新蛹蜂の巣板40、蜜粉の巣板41、及び隔王板50とを縦方向に差し込んで、複数配列した状態で保持する構造とされている。雄蜂巣板30、新蛹蜂の巣板40、蜜粉の巣板41、隔王板50の配列順序としては、図示するように、雄蜂巣板30に隣接した両側面に2枚の隔王板50を配し、その雄蜂巣板30及び隔王板50を両側から挟むように新蛹蜂の巣板40と蜜粉の巣板41が配される。蜂巣箱10の上部面には、網目状の蓋11が開閉可能に取り付けられている。その側壁面には穴があけられ、働き蜂の通り道である巣門15が形成されている。
【0037】
なお、図1においては特に示さないが、後述する図4で説明するように、上記の雄蜂巣板30、新蛹蜂の巣板40、蜜粉の巣板41及び隔王板50以外の、その他の巣板42を任意に挿入することができるようになっており、1つ蜂巣箱には合計10~15枚程度の巣板を挿入することができる。
【0038】
図2には、本発明において用いられる隔王板の一例が示されている。隔王板50は枠体32aと隔王柵51からなる木製の柵板形状をしており、後述する図3で説明する巣板とその枠の外辺の大きさや形状を共通にし、その枠体32の上辺部には枠体リブ状突出部33aが設けられている。この隔王柵51の横方向の柵によって働き蜂が出入りできて女王
蜂は出入りできないようになっており、本発明において隔王手段として用いることができる。この女王蜂が出入りできない柵の幅は各蜂の種類によって変わるが、例えばイタリア蜂の場合は、幅4mmとされている。
【0039】
図3には、本発明において用いられる雄蜂巣板の一例の部分拡大図が示されている。この雄蜂巣板30は、雄蜂の巣礎31、枠体32b及び雄蜂の巣房34を有し、その枠体32bの上辺部には枠体リブ状突出部33bが設けられている。雄蜂の巣礎31は良質の蜜蝋を使用し鋳型上でプレスして成型加工したものであり、平面状に複数の六角形のます目が形成されている。女王蜂は、女王蜂は産卵時、前脚と触角の感覚で巣房の大きさを確かめ、巣板形成された巣房の形状や大きさに応じて、雌蜂、雄蜂の卵を産卵するので、この六角形のます目の形状や大きさを特定の範囲にすることによって、女王蜂に雌蜂の卵(無精卵)を産卵させることができる。この雄蜂の卵の産卵に適した巣礎のサイズは各蜂の種類によって変わるが、因みに、イタリア蜂の雄蜂の産卵用の巣礎のサイズは、六角形の1辺5.8mm、1角度120度とされる。
【0040】
雄蜂の巣礎31は枠体32内に保持され、雄蜂の巣礎31の六角形のます目を基礎として、働き蜂により巣礎の両面に突出するように六角柱の雄蜂の巣房34が多数、密接して形成される。このように、雄蜂の巣房34は、働き蜂が巣房を作る習性を利用して形成される。
【0041】
上記の蜂巣箱10に、上記の雄蜂巣板30と2枚の隔王板50が挿入された状態において、挿入された2枚の隔王板50が、雄蜂巣板30が配される隔王板50の内側に、働き蜂が出入りできて女王蜂は出入りできない産卵制御領域70を形成するように配されている。すなわち、隔王板50の上辺部に設けられた枠体リブ状突出部33aが、並列して配される雄蜂巣板30の上辺部に設けられた枠体リブ状突出部33bに当接して、この産卵制御領域70内に入れられた女王蜂が上部から出入りできないようになっている。また、図示しない隔王板50の下辺部は蜂巣箱10の底面に当接して、この産卵制御領域70内に入れられた女王蜂が下部からも出入りできないようになっている。更に、後述するように隔王板の面全体は隔王柵によって構成されているので、働き蜂は隔王板に制限されることなく産卵制御領域70の内外を行き来できるが、女王蜂は行き来できないようになっている。
【0042】
図4は、上記の蜂巣箱10を上から見たときの断面図を示す。雄蜂巣板30は蜂巣箱10の中央付近に配され、雄蜂巣板30に隣接する両側に2枚の隔王板50が配されている。更にその隔王板に隣接する外側には、新蛹蜂の巣板40と蜜粉の巣板41が配されている。新蛹蜂の巣板40は、産卵後1日~5日目の幼虫の居住する巣板であり、働き蜂はその幼虫を哺育するために行き来する。また、蜜粉の巣板41は、働き蜂が花粉や蜂蜜を運んできて、これを貯蔵しておく巣板である。なお、これらの巣板の形状は働き蜂の巣板の形状と同じである。
【0043】
そして、上記の雄蜂巣板30、新蛹蜂の巣板40、蜜粉の巣板41及び隔王板50の外側には、働き蜂の巣板、又は産卵を終えて雄蜂の卵の産みつけられた雄蜂巣板からなるその他の巣板42が配されている。その他の巣板として産卵を終えて雄蜂の卵の産みつけられた雄蜂巣板を配する場合には、雄蜂巣板に産みつけられた雄蜂の卵を働き蜂に哺育させるための上記の又は後述する女王蜂のいない無王区として用いることができる。
【0044】
女王蜂60は、隔王板50に挟まれた産卵制御領域内70に入れられ、隔王板50によって産卵制御領域内70から出ることなく、雄蜂巣板30に無性卵を産卵する。一方、図示しない働き蜂は、隔王板50に制限されずに産卵制御領域内外を自由に行き来することができ、産卵制御領域内で雄蜂巣板の手入れや、女王蜂の世話をすることができ、また、
上記の巣門15を通って野外に出て花粉や蜜を採取したりすることができる。
【0045】
この実施形態によれば、上記の蜜粉の巣板41を雄蜂巣板30に近接した側面に配置することで、女王蜂に対して、餌になる蜂蜜と花粉が十分にあるという印象を与えることができ、上記の新蛹蜂の巣板40を雄蜂巣板30に近接した側面に配置することで、雄蜂の子を育てる働き蜂がたくさんいるという印象を与えることができるので、女王蜂60の産卵意欲を促進することができる。
【0046】
図5には、本発明の別の態様において用いられる女王蜂産卵制御器を示す。この女王蜂産卵制御器80は、底板82と、左右一対の側板81と、前後面を形成する隔王柵51と、上下に開閉可能に取り付けられた蓋板と12とを有する箱体から成り、雄蜂巣板30を箱内に縦に挿入することができる。
【0047】
図6には上記の女王蜂産卵制御器80を挿入して蜂巣箱10を構成した場合の断面図を示す。この女王蜂産卵制御器80には、雄蜂巣板30が挿入され、蓋12を閉じた状態で、蜂巣箱10に縦に挿入される。そして、この女王蜂産卵制御器80内が産卵制御領域70となり、これに女王蜂を入れて、雄蜂巣板30に無性卵を産卵させることができる。
【0048】
次に、本発明の雄蜂の子の生産方法について説明する。
【0049】
本発明において、雄蜂の子は、無性卵がまだ巣から出る前に蜂の巣の中で成長して健康体に発育したものである。この時の蛹体の付属肢は翼はまだ分かれていず、体はキチン質を表し硬化していないが、他はほぼ完全に発育した状態であり、この時が食品や、医薬品として栄養価値の非常に高いものになる。
【0050】
本発明の雄蜂の子の生産方法は、女王蜂による無性卵の産卵を制御するために工夫された方法である。以下に、その一実施形態について、上記の図1に示す本発明の蜂巣箱の一実施形態を参照して説明する。
【0051】
まず、隔王板で仕切られた産卵制御領域内70に女王蜂を入れる。なお、後述するように、この女王蜂として、産卵意欲の旺盛な処女女王蜂を好ましく用いることができる。また、後述するように、麻酔処理を施し、擬似的に女王蜂の生理状態を交尾後の状態にして、産卵ムードの高められた処女女王蜂を好ましく用いることができる。
【0052】
上記の産卵制御領域内70には、更に、雄蜂巣板30を挿入する。このようにして、産卵制御領域内70では女王蜂60が雄蜂巣板30と接触することができ、女王蜂60はその領域から出ることができないようにする。
【0053】
また、図示しない働き蜂は、産卵制御領域内70とその領域外を自由に行き来することができ、産卵制御領域内70では雄蜂巣板30の手入れや、女王蜂60の世話をすることができ、巣門15を通って野外に出て花粉や蜜を採取したりすることができる。なお、蜜蜂の飼育は、固定養蜂(場所を変えないで飼育すること)で行うことが好ましい。それによって、働き蜂が蜜や花粉を採取する周囲の環境を整えることができるので、農薬等に汚染されない蜂の子を生育させることができる。
【0054】
産卵後、女王蜂移入が完了し且つ雄蜂巣板挿入が完了したときから所定期間内に取り出す。これによって、女王蜂と、女王蜂の無性卵が産み付けられる雄蜂巣板30との接触期間を一定期間に限るので、日齢のそろった雄蜂の子を大量生産することができる。
【0055】
この実施形態では、隔王板50及び産卵制御領域内70に挿入された雄蜂巣板30が、
その産卵制御領域の領域外に配された新蛹蜂の巣板40及び蜜粉の巣板41に両側面から近接して挟まれるように配され、働き蜂が、該雄蜂巣板、該新蛹蜂の巣板及び該蜜粉の巣板を自由に行き来できるようになっている。
【0056】
したがって上述したように、上記の蜜粉の巣板41を雄蜂巣板30に近接した側面に配置することで、女王蜂に対して、餌になる蜂蜜と花粉が十分にあるという印象を与えることができ、上記の新蛹蜂の巣板40を雄蜂巣板30に近接した側面に配置することで、雄蜂の子を育てる働き蜂がたくさんいるという印象を与えることができるので、女王蜂60の産卵意欲を促進することができる。
【0057】
本発明の雄蜂の子の生産方法においては、上記の無性卵を雄蜂巣板に産卵させる期間を必要に応じて任意に設定することができるが、その期間を24~72時間とすることが好ましく、36~48時間とすることがより好ましい。その期間を24時間より短くすると女王蜂の産卵数が巣板を満たすのに充分でなく生産効率が悪くなり好ましくなく、また、その期間を72時間より長くすると、蜂の子の成長を揃えることができなくなるので好ましくない。そして、例えば、その期間を36~48時間に設定すれば、雄蜂巣板に産み付けられる無性卵の産卵数を一定以上に確保しつつ、無性卵から孵化する幼虫の日齢の差の最大幅は48時間以内となり、品質の整った雄蜂の子を大量に生産することができる。
【0058】
本発明の雄蜂の子の生産方法においては、女王蜂のいない無王区で働き蜂に哺育させる期間を必要に応じて任意に設定することができるが、その期間を、上記の女王蜂移入工程が完了し且つ上記の雄蜂巣板挿入工程が完了したときから20~21日目までとすることが好ましく、21日目までとすることがより好ましい。その期間を20日より短くすると、幼虫の成長が充分でなく、蜂の子の栄養価も高まっていないので好ましくない。また、その期間を21日より長くすると、幼虫が蛹の状態から成虫へと羽化してしまい、成虫の羽や体表器官等の形成によって、得られる蜂の子の栄養的要素の組成が変化してしまうので好ましくない。また、産卵後20~21日、より好ましくは産卵後21日の羽化直前のさなぎの状態の雄蜂の子は、蛋白質、アミノ酸、羽化ホルモンなどの栄養源や生理活性物質を豊富に含み、高い効果が期待できる。
【0059】
本発明の雄蜂の子の生産方法においては、複数の雄蜂巣板を用いて、上記の雄蜂巣板挿入工程と雄蜂巣板取り出し工程とを繰り返して、無性卵の産み付けられた1の雄蜂巣板を上記の産卵制御領域内から取り出し、無性卵の産み付けられていない他の1の雄蜂巣板を前記産卵制御領域内に挿入するようにして、女王蜂を上記の産卵制御領域内に保持したまま、女王蜂の産卵意欲が旺盛な期間に、繰り返し効率よく無性卵を産卵させることができる。
【0060】
この場合、通常、女王蜂の夏季一昼夜の産卵量は2000匹分以上であり2日間で4000の巣房を有する巣板の1枚をほぼ満たす程度に無性卵を産卵するので、雄蜂巣板を産卵制御領域内に挿入してから48時間後に取り出して新たな雄蜂巣板を挿入する。そして、更に48時間後に取り出して新たな雄蜂巣板を挿入することを繰り返すことで、効率よく無性卵を産卵させることができる。
【0061】
そして、例えば、後述する処女女王蜂は産卵意欲が特に旺盛であるので、通常、4サイクル分、4000の巣房を有する巣板の4枚分をほぼ満たすまで産卵を続ける。産卵を終えた女王蜂は、産卵制御領域内から取り出して、女王蜂の鋭気を養うための区域で飼育することで、その2~3日後には再び無性卵の産卵に用いることができる状態に戻る。また、女王蜂が取り出されて空いた産卵制御領域内に他の異なる女王蜂をいれて無性卵を産卵させることもできる。
【0062】
本発明の雄蜂の子の生産方法の更に好ましい実施形態においては、上記の産卵制御領域内で日齢が7日ずつずれるように無性卵の産み付けられた雄蜂巣板を、上記の無王区に常に3枚配置し、上記の無王区哺育工程を経て日齢が21日に達した雄蜂巣板を無王区から1枚取り出すときに、無性卵の産み付けられた新たな雄蜂巣板を無王区に1枚挿入するようにする。
【0063】
この実施形態によれば、7日ごとに働き蜂の哺育群の中に無性卵の産み付けられた1枚の雄蜂巣板を配置するので、無王区に配置された3枚の雄蜂巣板につき、餌やり等の哺育負担は常にその1枚分についての哺育負担で足り、同時に3枚分の餌を調達する等の必要がない。すなわち、巣房に産卵された卵が孵化し幼虫となると、産卵後7日目あたりにはその巣房の開口部に働き蜂の分泌物で固められた蓋が形成される。そして、1番目の雄蜂巣板の巣房が蓋された時、2番目の雄蜂巣板の蜂巣はまだ孵化していない状態で無王区に配置され、その7日後に2番目の雄蜂巣板の巣房が蓋され始めたとき3番目の雄蜂巣板が無王区に配置される。更にその7日後に3番目の雄蜂巣板の巣房が蓋される時、1番目の雄蜂巣板は産卵開始から21日目に達し、採取できるようになる。このようにすると終始2枚の巣房が蓋された雄蜂巣板と1枚の哺育負担を要する雄蜂巣板が配置されることになる。したがって、働き蜂に過度な哺育負担を与えることなく、常に適度な負担で生産性よく哺育させることができる。
【0064】
本発明において、交尾経験のない処女女王蜂は、生まれてから野外に出られないように飼育して雄蜂と交尾させないようにした女王蜂である。すなわち、蜂の生理習性によれば、女王蜂は蜂巣の外の空中で交尾するので、このようにして女王蜂の処女性を保つことができる。
【0065】
具体的には、例えば、幼虫から成虫となって巣房から出た羽化直後に女王蜂を捕獲して、羽化後の女王蜂の大翼を切除する。大翼の切除は大翼全体の1/3~1/2を切除すればよい。羽を切られて飛べない女王蜂は特別の飼育管理下になくとも雄蜂と交尾することがないが、念のため、蜂巣の巣門に隔王柵をとりつけて、女王蜂が蜂巣の外に出られないようにして、働き蜂に哺育させることが好ましい。
【0066】
本発明において、エーテル又は二酸化炭素による麻酔処理は、上記の処女女王蜂を密封容器に入れ、エーテル又は二酸化炭素のガスを充満させることにより行う。密封容器としては、蓋付ガラスびん、ビニール袋、プラスチック容器等を用いることができる。
【0067】
上記の麻酔処理は女王蜂の出房1~7日後に行うことが好ましく、6又は7日後に行うことがより好ましい。出房1日未満で行うと女王蜂の成育に与える影響が大きいので好ましくなく、8日以降に行うと、女王蜂の生理習性によって擬似的に女王蜂に交配をしたと思い込ませることが難しくなるので好ましくない。また、その麻酔処理条件としては、5~15分間、より好ましくは10分間麻酔処理し、女王蜂を密封容器から取り出して、麻酔からさめた後に、更に5~15分間、より好ましくは10分間麻酔処理を施すことが好ましい。この2回の麻酔処理を施すことにより女王蜂にその効果を十分に与えることができる。
【0068】
このようにして、生まれてきた女王蜂に対して、雄との交尾を不可能にさせつつ上記の麻酔処理を施すと、麻酔処理後2~3日後に女王蜂は無性卵を産み始めて、1度の産卵期間に最高4000の巣房を有する巣板の4枚分をほぼ満たすまで産卵を続ける。
【0069】
本発明の雄蜂の子の生産方法においては、生産される雄蜂の子の腐敗の進行等を防ぎ、長期の保管を可能とするために、無王区哺育工程を経た雄蜂巣板を無菌室に運び、巣房の蓋を無菌室でカットして、巣房から雄蜂の子を取り出し、集められた雄蜂の子を急速凍結
して保存することができる。
【0070】
具体的には、図7に示すように、雄蜂巣板30を無菌室90内に運び、カッター91で雄蜂の巣房34の開口部に形成された上記蓋をカットし、雄蜂の巣房34を逆さまにして上記開口部から雄蜂の子95を取り出す。この雄蜂の子95はさなぎ状態をなしている。
【0071】
次いで、この雄蜂の子95を、図8に示すように袋96に充填し、図示しない冷凍室に入れて冷凍保存する。その結果、雄蜂の子を衛生的に保管することが可能となる。
【0072】
本発明によって生産される雄蜂の子は、凍結乾燥などの手段によって乾燥、粉末化することにより、そのまま加工食品や医薬品の原料とすることができる。
【0073】
また、本発明によって生産される雄蜂の子をプロテアーゼで処理することもできる。すなわち、プロテアーゼ処理によって、蜂の子に含まれる蛋白質が分解されて低分子化され、水溶性となるので、飲料等に添加しても沈殿や懸濁を生じにくくすることができ、また、ざらつき感がなくなって舌触りが滑らかになり、食感を改善することができ、更に、蛋白質が低分子化されるので、腸内における吸収性が良好となり、生理活性を高めることが期待できる。
【0074】
そのためのプロテアーゼ処理は、雄蜂の子を容器に入れて攪拌しつつ、プロテアーゼを添加して蛋白質の分解を行う。プロテアーゼとしては、特に限定されないが、例えば、パパインなどが好適に用いられる。
【0075】
プロテアーゼの反応条件は、使用する酵素に応じて適宜設定すればよいが、通常は、pH6.0~6.5、温度50~60℃の条件下で、3~4時間程度処理すればよい。なお、雄蜂の子は、極めて柔らかい組織を有するので、攪拌するだけで破砕されて粘液状となるので、水に懸濁等させなくても酵素を効率よく作用させることができる。
【0076】
酵素反応は、雄蜂の子に含まれる蛋白質が部分分解して水溶性となる程度、いわゆるペプチド状態で終了させることが好ましく、アミノ酸等になるまで低分子化する必要はない。好ましくは、雄蜂の子に含有される蛋白質が平均分子量180~1000のペプチドとなるように酵素分解させる。
【0077】
こうして酵素反応させた後、得られた反応液を75~90℃に加熱して酵素を失活させ、ろ過、遠心分離等の手段で固液分離し、得られた液部をスプレードライ、凍結乾燥などの手段によって乾燥、粉末化することにより、雄蜂の子の加工品を得ることができる。
【0078】
この雄蜂の子の加工品は、そのまま製品とすることもできるが、必要に応じて、造粒、打錠成形、カプセル化などの手段で成形し、製品とすることもできる。更には、例えばパン、水産練製品、畜肉練製品、乳製品等の食品や、清涼飲料、乳飲料、蛋白質補給飲料等の飲料に、栄養補強、生理活性付与の目的で添加することもできる。雄蜂の子の加工品を原料として健康食品や医薬品を製造する際の製品形態は、錠剤、カプセル剤、粉末、顆粒、液状、ペースト状、ゼリー状等の各種形態とすることができる。
【実施例】
【0079】
以下に試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0080】

交尾経験のある女王蜂による無性卵の産卵数と、交尾経験のない処女女王蜂による無性
卵の産卵数を比較した。
【0081】
すなわち、上記の図1に示す蜂巣箱を用意し、生まれてから自由に行動させて野外で交尾した女王蜂を蜂巣箱の隔王板に挟まれた産卵制御領域内に入れて、雄蜂巣板に生みつけられる無性卵の産卵数を観測した。なお、産卵制御領域内に挿入した雄蜂巣板は、およそ4000の巣房がほとんど埋まった状態(卵がある状態)となったときに産卵制御領域から取り出して、新たな雄蜂巣板を産卵制御領域内に挿入し、女王蜂による産卵行動を継続させた。
【0082】
また、処女女王蜂は、生まれて巣房を出た後、大翼の1/3を切り、巣門に隔王柵を取り付け、女王蜂が蜂巣の外に飛び出さないようにして飼育することで得た。そして巣房を出て6又は7日目に、エーテルで、続けて2回、10分間、麻酔処理を施してから、上記の図1に示す蜂巣箱であって、交尾経験のある女王蜂に用いたものとは別に用意した蜂巣箱の隔王板に挟まれた産卵制御領域内に入れて、雄蜂巣板に生みつけられる無性卵の産卵数を観測した。
【0083】
表1には、その結果を示す。結果は、巣房がほとんど埋まった状態(卵がある状態)となった雄蜂巣板の枚数で表した。
【0084】
【表1】
000002
【0085】
表1に示すように、処女女王蜂の蜂群による産卵済み雄蜂巣板の枚数は、産卵初期(平箱)及び産卵後期(継箱)のいずれの養蜂期においても、交尾した女王蜂の蜂群による産卵済み雄蜂巣板の枚数を上回った。よって、処女女王蜂の蜂群を雄蜂の子の生産に用いることが雄蜂の子の生産効率を高めるのに有効であることが明らかとなった。
【0086】

交尾経験のある女王蜂の産卵意欲と交尾経験のない処女女王蜂の産卵意欲を比較する目的で、季節によって産卵率がどのように変化するかを調べた。すなわち、上記の図1に示す蜂巣箱を用意して、試験例1と同様にして、交尾経験のある女王蜂、あるいは処女女王蜂に産卵させて生みつけられる卵の数を観測した。観測は、4月中旬から9月下旬までにわたって20~25日毎に分けて行った。
【0087】
表2には、その結果を示す。なお、結果は、同一地区における4~5月初旬の歴年の平均的な産卵率を100%として、その相対値としての産卵率(%)で表した。
【0088】
【表2】
000003
【0089】
表2に示すように、処女女王蜂の蜂群による無性卵の産卵率は、実験期間中、常に、交尾した女王蜂の蜂群による無性卵の産卵率を上まわった。そして、処女女王蜂は夏~初秋にかけてもその産卵意欲を持続し続けることが明らかとなった。
【0090】

上記の図1に示す蜂巣箱を用いて雄蜂の子を生産する場合において、その隔王板によって女王蜂を産卵制御領域内に所定期間隔離する場合と隔離しない場合に、得られる雄蜂の子の日齢がどのように影響を受けるかについて調べた。すなわち、上記試験例1と同様にして得た処女女王蜂を雄蜂巣板とともに産卵制御領域内に入れて無性卵を産卵させ、産卵開始から48時間後に産卵制御領域から取り出した。その後、雄蜂の子の産卵のための蜂巣箱とは別の蜂巣箱である継箱に移して飼育して、処女女王蜂を蜂巣箱に入れてから何日目までに羽化するかを観察した。
【0091】
一方、女王蜂を産卵制御領域内に隔離しないで産卵させるために、上記の図1に示す蜂巣箱において、隔王板が巣箱の端に配置され、雄蜂巣板が新蛹蜂の巣板と蜜粉の巣板とに隣接して挟まれて蜂巣箱の中央部分に配置されるように、それぞれの巣板を移動して、産卵制御領域を実質的に有しない蜂巣箱を準備した。そして、処女女王蜂が雄蜂巣板、新蛹蜂の巣板及び蜜粉の巣板とを自由に行き来できるようにして飼育し、その後、雄蜂の子の産卵のための蜂巣箱とは別の蜂巣箱である継箱に移して飼育して、処女女王蜂を蜂巣箱に入れてから何日目までに羽化するかを観察した。
【0092】
下記表3にその結果を示す。なお、結果は8箇所の養蜂場で産卵したそれぞれの雄蜂の子の羽化までの最大日数と最小日数で表した。
【0093】
【表3】
000004
【0094】
表3に示すように、隔王板を用いて女王蜂を隔離した場合には、8箇所の養蜂場のいずれにおいても、得られる雄蜂の子の羽化までの期間は20~21日にそろった。
【0095】
一方、隔王板を用いて女王蜂を隔離しない場合には、得られる雄蜂の子の羽化までの期間は、その最小で17日、その最大で23日となり、羽化までの期間の最大/最小の幅がより大きくなり、日齢のそろった雄蜂の子が得られないことが明らかとなった。
【0096】

無王区での飼育方法によって、雄蜂の子の生産量がどのように影響を受けるかを調べた。すなわち、上記の試験例3の産卵制御領域内に所定期間隔離する場合と同様にして、図1に示す蜂巣箱を用いて処女女王蜂に48時間産卵させ、その後、雄蜂の子の産卵のための蜂巣箱とは別の蜂巣箱である継箱に移して飼育した。
【0097】
そして、複数の雄蜂巣板を(1)継箱に同時に入れる場合、(2)継箱に10.5日毎2回に分けて入れる場合、(3)継箱に7日毎3回に分けて入れる場合について、それぞれ計3枚の雄蜂巣板から得られる雄蜂の子の生産量を比較した。なお、下記表4には4箇所の養蜂場でのそれぞれの結果をまとめた。
【0098】
【表4】
000005
【0099】
表4に示すように、いずれの養蜂場においても、(1)継箱に同時に入れるよりも、(2)10.5日毎2回、より好ましくは(3)7日毎3回に分けて継箱に入れて、無王区での哺育を行わせたほうが、得られる雄蜂の子の総生産量が高かった。よって、1つの継箱に管理されている働き蜂の哺育群の組織に対して、雄蜂が幼虫から蛹になるまでの哺育負担が軽減されるように、雄蜂の子の産みつけられた雄蜂巣板を、期間をおいて配置することでその総生産量を大きく増大させることができることがわかる。
【0100】

雄蜂の子の回収方法の違いによって、得られる雄蜂の子の微生物指標がどのように影響されるかを調べた。すなわち、従来の方法に従って、野外で採取した場合と、上記の図7において説明した雄蜂の子の回収方法で採取した場合とを、4箇所の養蜂場で比較した。その結果を、表5に示す。
【0101】
【表5】
000006
【0102】
表5に示すように、いずれの養蜂場においても、養蜂家による養蜂場での採取では微生物指標が高くなっていた。一方、上記の図7において説明したように無菌環境化に採取することで、その微生物指標を低値のコントロールできることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明により大量生産される雄蜂の子は、栄養価が高く、加工食品、医薬品の原料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の蜂巣箱の一実施形態を示す図表である。
【図2】本発明において用いられる隔王板の一例を示す図表である。
【図3】本発明において用いられる雄蜂巣板の一例の部分拡大図を示す図表である。
【図4】上記の蜂巣箱を上から見たときの断面を示す図表である。
【図5】本発明において用いられる女王蜂産卵制御器を示す図表である。
【図6】本発明の別の実施形態の蜂巣箱を上から見たときの断面を示す図表である。
【図7】雄蜂巣板から蜜蜂の子を取り出す状態を示す説明図である。
【図8】取り出された蜜蜂の子を袋に充填した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0105】
10 蜂巣箱
11、12 蓋
15 巣門
30 雄蜂巣板
31 雄蜂の巣礎
32a、32b 枠体
33a、33b 枠体リブ状突出部
34 雄蜂の巣房
40 新蛹蜂の巣板
41 蜜粉の巣板
42 その他の巣板
50 隔王板
51 隔王柵
60 女王蜂
70 産卵制御領域
80 女王蜂産卵制御器
81 側板
82 底板
90 無菌室
91 カッター
95 雄蜂の子
96 袋

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